「覚えてないよね。……3年前なんて」



ひなはそう言いながら溜め息を吐くと、グーッと両手を上に伸ばした。


知らなくて当然。


ひなだって、記憶のある日から3年前にどんな事件があったかなんて覚えていない。


3年という年月は、短い様で長いのだ。



ひながベッドから下りようと足を床に着けた時、亮介がポリポリと右手の人差し指で頭を掻きながら口を開く。



「いや、そうじゃなくってさ。事件っていう事件が3年前位から全く無いからさ」


「全く無い?」


「そう全く」



事件が全く無いという事が不思議で首を傾げたままのひな。


それに苦笑して亮介が答えた。



「殺人事件とかそういう物騒な事件は一切起きてないんだよな。すっげー平和そのものって感じだな」


「平和……?」


「そう。平和」



3年もの間に全く事件が起きてないなんて事あるんだろうか?


いや、でも私の記憶でも平和そのものって感じだった気がする。


殺人事件が起きたというニュースを見て、最近は平和だったのに…と思っていた。



「本当に何も無かったの?」


「嘘じゃねぇよ。本当に平和なの」



平和というものが余りにも信じられなくて、亮介に向けるひなの目が疑うような目になっていたのだろう。


ツンと唇を尖らせて不満気な顔を亮介がする。


それにクスッと笑って「そっか」と言うのは、亮介が嘘なんて吐かないとひなが信じているから。


物騒な事件が起きてないなんて事あるわけ無い!と思っていても、亮介がそう言うのだから起きていないんだ。