ひなの記憶は3年前までしかない。そして、亮介はひなに3年会っていなかったと言う。


やっぱりサトシが言っていた様に3年後にタイムスリップしたという事だろうか。


それなら、この3年間にはひなは存在しなかった事になる。


ひなの事を思い出したという亮介が、この3年間はひなの記憶がないと言っている様なものなのだから。



3年前に、一体何があったの?



亮介はひなの肩から手を離すと、スクッと立ち上がり、ポケットに入っていた鍵を玄関の鍵穴に差し込む。



「なんかさ、久しぶりだしこんな所で話しすんのもなんだし。……部屋入るか?」



数センチだけドアを開き、クルッとひなの方を振り返った亮介の頬はほんのりと赤い。



亮介とゆっくりと話しが出来る。


私の記憶が無かった筈なのに、目を合わせた瞬間に思い出してくれたなんて、こんなにラッキーな事はない。


でも、亮介を巻き込んで良いの?


こんな訳の分からない事に、亮介を巻き込んで大丈夫なの?



そんな考えがひなの頭の中を駆け巡る。


亮介の事が好きだからこそ躊躇する。


本当に巻き込んでも大丈夫なのかと。亮介を巻き込んでしまったら、亮介も自分と同じ様に消えた存在になってしまわないかと。


サトシは助けて貰えと言っていただけで、その助けてくれた人の事には触れてない。



「ひな?どうした?」



優しい亮介の声が降ってくる。


亮介の事を考えたら巻き込まない方が良いのかもしれない。……でも、亮介の記憶から完全に自分が消えてしまうのが辛い。


嫌なんだ。