このおじさんに話を聞く事が吉と出るか凶と出るかの判断が付かない。
だから、これ以上先を聞くのが少し怖い。
そう思ったらもう口が開けないのだ。
そんなひなの様子をクスクスと優しそうに笑うおじさんの声が響く。
その姿には今さっきひなに向けた意地悪な雰囲気など欠片もない。
さっきのおじさんが幻だったんじゃないかと思う程だ。
「そう怖がらなくても大丈夫だよ。君は元の世界、3年前の世界に戻ることがまだ出来る」
へらっと笑いながらも断言されたその言葉に思わずグイッとおじさんへと顔を近付けた。
それと同時に、
「ど、どういう事ですか!?どうやったら戻れるんですか!?」
一番聞きたかった疑問がひなの口をついて出る。
そんなひなの態度にも冷静さを失わないおじさん。
「まあ、座って」
「す、すみません」
おじさんにそう促されると、慌てて近付けた顔を戻し、靴を脱いでその場に腰を下ろした。
焦ると大事な事を聞き逃す。
それが分かるからこそ、一度深呼吸をすると焦る気持ちを落ち着かせる。
「ところでお嬢さん。お名前は?」
「あっ、…神崎ひなです」
ひなの名前を聞いて、神崎ひなさんか。とひなの名前を覚える様におじさんが復唱する。
名前を聞かれたら、その相手の名前も聞くのが一般的だ。
「あの、……貴方は?」
たが、そう口にした後にばつが悪そうにひなが視線を下に向けた。
このおじさんはホームレスなのだ。
ならばもしかしたら、名前を言いたくないかもしれない。
この質問はしてはいけなかったかもしれない。


