ホームレスのおじさんと話をして、そのおじさんの段ボールで出来た家にお邪魔している。
こんな事人生の中でなかなか経験の出来る事じゃない。
それを分かっているだけに、余計に緊張するのだ。
これから自分はどうなってしまうんだろうか?
おじさんは何を知っているのだろうか?
そんな疑問が頭を駆け巡るのも、更にひなの緊張を助長させている。
ひなが足を踏み入れた中をキョロキョロと見渡す。その目は好奇の目だ。
汚れた毛布が端に丸められており、テーブルとして使っているのか、小さな段ボールがちょこんと置かれている。
その段ボールの上にあるのは、古いラジオのみ。
「一応、ここが私の家だから、靴は脱いでもらえるかな?」
苦笑混じりにおじさんにそう言われて気付く。
自分が靴を履いたまま家の中へと入ったのだと。
「あっ、すいません」
「いや、お嬢さんはこんな所に来たのは初めてだろうから。そういう私だってここで暮らしはじめて3年目さ」
「3年……ですか」
3年という言葉にひなが顔を歪める。
それに気付いたのか、おじさんが片方の口角を上げてニヤッと意地悪に笑った。
「ああ、お嬢さんはもう気付いているのかな。ここが君の記憶にある日にちから3年経っている…って事に」
ああ。このおじさんはやっぱり知っているんだ。
私が今どんな状況かってことを分かってるんだ。
それが分かったのに、ひなはグッと奥歯を噛み締めるだけで口を開こうとしない。


