再び無言で歩き出して少しすると、周りは一気に人気の少ない場所へと変わっていく。
と言っても、全く人がいない訳ではない。
もう目と鼻の先にある河川敷にちらっと見える人は、今ひなの隣にいるおじさんと殆ど同じ様な格好をしている。
しかもこの河川敷には、段ボールとビニールシートで造られたと思われる家らしきものが何個もある。
この場所に来るこのおじさん。
もう間違いなくホームレスだと思う。
「あれだよ。私の家は」
段ボールの家が何個かが連なっている内の1つを指差すおじさん。
そのままおじさんの家へと向かって進んでいく。
それに、付いていくひなは端から見たら変な光景に見えるかもしれない。
が、ひなはこのおじさん以外には見えないのだから、変なものを見る目を向けられる事はない。
当然ながらここには、おじさんと同じ様な人ばかりだからか、さっき道路でおじさんに向けられていた突き刺さる蔑む様な視線すらない。
家の前に着くと、おじさんが馴れた手付きで家のドアらしいブルーシートをバサッと捲る。
「さあ、どうぞ」
「失礼します」
おじさんに促されるまま、その家の中へと腰を屈めて恐る恐る入っていくひな。
今のひなはドキドキと大きな音をたてる心臓の音さえ気にならない程、緊張している。
未知の場所に初めて足を踏み入れる感覚だろうか。


