ズボンのポケットに両手を突っ込んでいるその姿を周りの人は汚い物を見る目で見ると、直ぐに目を逸らす。
このおじさんは周りの人に見えている。
冷たい視線がおじさんに突き刺さっているのだが、それすらも今のひなには羨ましく思えてしまう。
自分はそんな目すらも向けてもらえない。
付いていくか、付いていかないか……。
知らないおじさんに付いていく事は危険。でも、……今のこの状況をこのおじさんに聞く以外にどうやって抜け出したらいいかも分からない。
「あっ、……待って下さい!」
結局の所、慌てておじさんの後ろを追う事しかひなには出来ないのだ。
おじさんの横に並ぶと、体臭の様な嫌な臭いが鼻につく。
思わずひなの眉間に皺が寄るが、それでも少しだけ見えた光を逃す事なんて出来ない。
無言で歩を進めていくおじさんとひな。
そんな中突然、
「うっ……」
うめき声と共におじさんが足を止めた。
頭を両手で抱えるように抑える様子から、頭痛だろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。最近頭痛が酷くてね。歳かな」
心配顔のひなに、頭が痛いのを我慢しながらもへらっと笑ってそう言葉を返すおじさんは、一体何者なのだろうか。
本当はこの場で一気に分からない事を聞いてしまいたい。
そう思うのに、おじさんからはそれを許してくれない雰囲気をどことなく醸し出している。
だから、ひなもおじさんの方をチラチラと見るだけ。


