「あ、……あの。……私が見えるんですか?」
必死にそう言葉を紡ぐひな。
ひなの顔からは、明らかに警戒の色が見てとれるが、おじさんはそんな事全く気にした気配もなくニコッと微笑んだ。
「ああ。私には君が見えているね」
やっぱり見えているんだ!
今日初めて私が見える人に会った!
そんな驚きから目を見開くのと同時に、自分が見えるという人に出会えた事にいちるの希望が溢れてくる。
「あ、…あの!わ、私、……誰にも見えていないみたいで……。どうしたら……」
目の前のおじさんにグイッと顔を近付けてそうすがる様な言葉を並べる。
それをやはりさっきと同じ様に微笑んで、
「まあ、こんな所で立ち話もなんだから、私の家にでも招待するよ。お嬢さん」
そう言ってクルッとひなに背中を見せる。
「えっ…」
どうしたらいいか分からない。
自分の事が見えているというこのおじさんに付いていって大丈夫なのだろうか?
この薄汚いおじさんに……。
見知らぬ人に付いていってはいけない!なんて事は子供の頃に散々親から言われてきている。
だからこそ、全く知らないこのおじさんに付いていくという選択に迷ってしまうのだ。
ひなが迷っている事に気付いたのか、おじさんがフフッと笑うと、顔だけ振り返ってひなの目を見つめて口を開く。
「ついて来るか、ついて来ないかは君次第だよ」
それだけ言うと、顔を前に戻しゆっくりと歩き始めた。


