それでも、真由美を見ながらひなが口を開いた。
「真由美!真由美!ひなだよ!」
真由美は園児と共に楽しそうに笑っていて、ひなの必死な叫び声は届いていない。
聞こえていない。
そうさっき気付いた筈なのに、知り合いに出会えば少しの希望にかけてみたくなる。
「真由美!……気付いてよ!」
ガシャガシャと両手でフェンスを揺らすが、何も変わらない。
仲良く話していた友達の真由美でさえ、自分に気付いてくれないのが苦しくて、悲しい。
ツーっとひなの頬を伝う涙。
その時、
「お嬢さん」
その言葉と共に後ろからトンッとひなの肩が軽く叩かれた。
「えっ!?」
思わず後ろを振り返ると、そこには40代位のおじさんが立っている。
無精髭に、白髪混じりの肩までのボサボサの髪。
服装は、ズルッとしたジャンバーを羽織っており、だぼだぼのズボンを履いているその男性。
その風貌から判断すると、ホームレスというイメージがしっくりくる。
「お嬢さん、何をそんなに叫んでるんだい?」
「……えっ…?」
このおじさんには何でひなが見えているのか?
そんな疑問が頭を駆け巡る。
誰にも姿が見えなくて、誰にも声が聞こえない。それに気付いた所なのに、それも間違い?
ゴクッと息を呑むと、じっと目の前のおじさんを見つめる。
おじさんの目は間違いなくひなを見据えていて、ひなの後ろの誰かに声を掛けている訳じゃない。
それに、こんな場所でさっきまで叫んでいたのはひなただ一人。


