ふらふらと歩いている内に短大を出て、自分の家までの道を歩く。
結局、どうすればいいのか検討も付かない時は、自然と自分の家へと帰ろうとするものなのだろう。
何も考えられずただ足を動かしているだけ。その時ふとひなの耳に、
「せんせーい!」
子供の先生を呼ぶ声が聞こえてきた。
足を止めてその声の方へと顔を向ければ、そこには幼稚園があり多くの園児達が遊んでいる。
ニコニコと笑っている園児達を見ると、思わずひなの頬が緩む。と、同時に落胆する。
本当なら……。
3年後は、……幼稚園の先生になっていたかった。
ふわっと微笑んでいた筈のひなの表情が一気に切なさを纏う。
「せんせーい!まゆみせんせーい!こっちこっち!」
先生を呼んで手招きをしている砂場にいる女の子。
先生に砂場で作った何かを見せたいのだろう。
女の子に呼ばれたらしいクリーム色のエプロンを身に付けたまゆみ先生が「何~?」と言いながら砂場へと向かって歩いてくる。
「えっ!……真由美!?」
驚きから目を見開いて幼稚園の砂場へやってくる先生の顔を見つめるひなの口から漏れでたその叫び声。
女の子に向かって歩いてくるまゆみ先生の顔は、明らかに短大の講義を一緒に受けていた真由美だ。
止めていた足を動かし幼稚園の砂場近くのフェンスへと駆け寄るひな。
ガシャン!
ひながフェンスを両手で握ったからか大きな音が響くが、当然ながら園児も先生も音の方を振り向かない。


