今日の新聞のコーナーの前まで来ると、その中から1つの新聞を掴むと勢いよく上へと掲げた。
バサッ!!
一気に上へと上げられた新聞はその風圧の影響で大きな音を響かせる。
ひなの目の前を歩いている生徒もいた。
凄い至近距離。
普通なら、いきなり音が聞こえたら思わず振り向いてしまうそんな状況。
それなのに、誰も反応しない。
ひなが見えていないというだけじゃない。彼等にはさっきまで目に見えていた筈の新聞さえも、ひなが手に取った時点で見えなくなったのだ。
ひなが持っている物も見えなくなる。
それがさっきの疑問の答えだ。
「私が手に取ると、その物でさえ存在が消える…って事……?」
新聞を持って上へと挙げていた手がだらりと垂れ下がる。
ひなの存在を全て否定された気になる。
幽霊としてさえ存在していない…そう言われた様な気にさせられる。
そのせいか、虚ろな目をしてふらふらとした足取りで近くにあった椅子に腰を下ろしたひなは、生気が抜けた様な顔をしている。
自分という存在が何なのかが分からない。
それがとてつもなく怖い。
どうせなら自分が幽霊だとはっきり分かった方がまだましだったかもしれない。
ただぼけっと視線をさ迷わせていたひなの目に、ふと新聞の日付が飛び込んできた。
5月15日。
昨日が14日だったのだから、今日が15日で何もおかしくない。
ただ、……ただ、その日付の前に書かれた年号の数字が明らかにおかしい。


