次第に溜まってくる涙をもう堪える事も出来ず、涙の粒がひなの頬を伝っていく。
太陽の光でその粒が宝石の様にキラキラと輝いているのに、それにすら誰も振り向かない。
ひなの目に映るのは異様な光景だ。
誰にも自分の存在を認めて貰えないという異様な光景。
グッと歯を食い縛って、手の甲でグイッと涙を拭うと、さっきまで座っていた席へと足早に歩を進めた。
そして、席の前まで来て乱暴に鞄を掴み取ると、そのまま一直線に駆け足で後ろのドアから教室を出た。
ひなが勢いよく開けた後ろのドアがバンッ!と大きな音をたてた瞬間に、森園教授がそのドアへと顔を向け、
「あら?風かしら?」
不思議そうな顔付きで首を傾げそう言う。
その言葉は教室から駆け出て行ったひなに届く事はなかった。
ーーーーー
勢いよく走ったせいか息が切れる。
間違いなく逃げた。
さっきまでいた教室のあった校舎から外に出ると、走るのを止めて切れ切れの息を元に戻す為にゆっくり歩を進める。
どこに向かっているという目的もなくただ足を動かすだけ。
それでも、さっきのあの空間に居たくなかった。
自分が存在していないかのように振る舞われる。
それが、……酷く怖い。
怖さからやってくる寒気にひなはブルッと肩を震わせると、そっと足を止めて後ろを振り返った。
ひなの目に映るのは3階建ての赤茶色のレトロな雰囲気の校舎。


