ふっくらとした体格に、微笑むと笑窪が出来る顔。それが、彼女を優しく朗らかに見せている。
教授になる前は幼稚園の先生をしていたんだとか。
「あ、…あれ?」
再びひなが首を傾げる。
可笑しい。……明らかに変なのだ。
ひながこの教室で受けようとしていた講義は、紛れもなく森園教授の講義で。
その森園教授がこの教室にやって来たという事は教室の変更は無いという事になる。
でもだ。この教室には、ひなの知っている生徒が一人もいないのだ。真由美だっていない。
皆も森園教授の講義を履修している筈なのに。
「あ、あの。森園教授!」
顔見知りである森園教授に向かってそう声を掛ける。
いつもと違う講義内容なのかを聞こうと思っての事だったのだが、ひなのその言葉に反応を示さない森園教授。
森園教授は大人だし、無視なんてする様な人じゃない。
でも、今ひなの言葉を無視して顔を向けようともしないのが現状で。
更にひなの頭が混乱する。
「あのっ!あのっ!森園教授!」
大声で叫んでいるのに、誰一人としてひなを見ない。
それどころか、森園教授が普通に講義を始めだした。
「誰か!聞こえますよね!?」
教室内を見渡して必死に声を出すも、講義を止めない森園教授と、その講義を真剣に聞くふりをする生徒達。
ひなから見たら、生徒達は皆聞くふりだ。
何故ならひなが大声で叫んでいる為、森園教授の声なんて聞こえないのだから。
なのに、皆聞くふりをしてひなを無視する。
な、…何で……。
何で皆して私の声が聞こえてない振りするの……。
何で…………。


