今のこの状況を周りはどう見ているのか気になって、くるっと後ろを振り返ってみるも、誰一人としてひなの方を見ていない。
ひなの声はかなり大きかった筈なのに。
この教室にはもうかなりの人数の生徒がいるのに。
「あのー!!」
誰でも良いから教えて欲しいという気持ちから教室に響いて反響する位のひなの大声での呼び掛け。
けれども、それにすら誰も反応を示さない。
まるでひなの声なんて聞こえてないかの様な振る舞いをする人ばかり。
な、……何で?
その時、ふと黒い封筒に入っていた手紙の内容が頭を過った。
『貴女は消えかけた存在です』
これって、……まさか…。
そ、…そんなわけない!あんなのただの悪戯!
そう思いたいのに、今の現状がそう思わせてくれない。
誰もひなを見てくれない。誰もひなの声を聞いてくれない。
あの悪戯の手紙を信じてしまいそうになるには、十分な要素だ。
せめて、誰かひなの知っている人が一人でもいれば、ひなの不安も少しはましになったのかもしれない。
その時、ガラッという音と共に教室の前のドアが開かれた。
この教室で講義をする教授、はたまた准教授がやって来たのだろう。
この際、教室変更の事を教授に聞いてしまおう!と席に座らずに立ち尽くしていたひなが、慌ててドアの方へと顔を向ける。
と、そこには今日初めてのひなの見知った顔があった。
幼児教育の講義を担当している森園教授だ。


