同時刻、田舎町の中学校で卒業式が今しがた終わりを迎えた。


卒業生が校門をくぐって帰って行くのを、さっきまで自分達の教室だった3年2組の窓から感慨深い表情をして眺めているのは、神崎ひな(カンザキ ヒナ)だ。



「卒業だね」



そのひなの切なそうな一言に、堤亮介(ツツミ リョウスケ)も口を開く。



「ああ、何だか寂しいな」



そう言いながら亮介がひなの隣へとやって来た。


ひなと亮介の間にふわっと流れる風はまだ冷たい。


思い出の沢山詰まった学校を卒業するのを寂しく思うのと共に、ひなの頬に伝う水。


卒業式が終わって一気に静かになった校舎に、寂しいという思いが強くなったのかもしれない。


そこに、亮介とは反対側からひょこっとひなの顔を覗き込んでくる親友、倉橋梓(クラハシ アズサ)がひなの涙を見て目を見開いた。



「あれっ!ひな、泣いてるの!?」



実際に涙を流していたのだから、泣いていたのだが、そう思われるのも何だか恥ずかしい。


そう思って右手の甲で涙をグイッと拭うのはひなの小さな意地だ。


そのまま、梓に向かって唇を尖らせる。



「煩いなー。もう梓ってば」


「そうですよ!そりゃ、泣けちゃいますってば」



ひなの言葉に加勢したのは佐原夢(サハラ ユメ)だ。


夢へと顔の向きを変えた梓が意地悪にニヤッと笑う。



「夢は号泣だったもんね」


「寂しいですもん」



頬をぷうっと膨らませて拗ねた様にそう言う夢を可愛いと思ったのは、ひなだけではないだろう。