この男は、嘘を吐いたつもりは本当にないのだろう。


だとしたら、この男は幻覚を見た。もしくは、見ている可能性が高い。



そう判断しての事だ。



「すみませんが、署までご同行願います」



日下部のその言葉を合図に、左腕を日下部に、右腕を田村が掴む。


二人の刑事に捕まれ包囲された男はそのまま彼らと共に歩き出した。


恐らく、日下部と同年代位であろうその男はぐったりとして首を項垂れる。


その目からはやはりまだ涙が流れており、



「本当に、……消えたんだよ」



小さなその呟きが静かな民家にこだました。