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ザーザーと大きな音をたてて降る雨。そろそろ梅雨入りでもしたのだろう。
その雨風で黒と白の鯨幕が大きく揺れる。
喪服に身を包んだ多くの人が傘を差してやって来ては涙を流して去っていく。
そんな場所で傘を差しながら立ち話をする二人の40代位の女性。
「まさか自殺なんてね」
「ほんとに。もうすぐ結婚する予定だっらしいのにね」
「そういえば聞いた、藤井さん?」
「何を?」
「自殺した部屋の床に赤いペンで書いてあったんですって」
「えっ、何て!?」
「なんでも、《彼女は人殺しだけの世界にしようとしている》って」
「どういう意味?人殺ししか生きられないっていう意味?」
「さあ?鬱とかだったのかしら?」
そこで、二人の横を透明傘を差した黒の学生服を着た一人の青年が横切った。
それを見た女性の一人が彼に声を掛ける。
「あっ!龍!」
「何?母さん」
「もう高校生になったんだから、ちゃんと拝んでお別れしてきなさいよ!ひなちゃんにはお世話になったんだから!」
「分かってるよ」
全ての人の涙をも消し去る様な雨は、まだ止まない。
完


