『どっち?』の後に『こっち』。


その間にひなにあった変化は、……自分ではなく梓が消えた事だ。


あの時のひなには選択肢が2つあった。


自分を殺そうとしている犯人である梓の名前を言うか、知り合いを3人殺すかだ。


結果、ひなは前者を選んだ。



彼女が言っているのは『アナタは、……人を殺した?殺してない?』という問い掛けだったとしたら。


彼女は……、


もしかして……



ハッと何かに気付いたひなは、まだ動く左手でテーブルの上に置かれていた赤いペンを掴み取ると、右手に持ち変えて床へと字を書き始めた。


が、ゆっくりと女の手がひなへと迫ってくる。


女の手がひなの手を掴むと、コロンッと転がっていく赤いペン。


女の力はとても強くて、ひなにはもうどうすることも出来ない。


ひなの手を掴んだまま、首へと宛がわれる手。


首に触れているのはひな自身の手だが、その上から覆い被さる様に女の手が添えられている。


そのまま、グッと力を込められる。


徐々に霞む視界。


ひなは朦朧とする意識の中で、彼女が満足そうにニヤッと笑う顔を見た気がした。