そして、再びテーブルの方を向こうと顔をゆっくりと動かした。
その時、ベッドの横の床に落ちている髪の毛がひなの目に留まる。
ドッドッドッドッ!
危険信号を出すかの様に、けたたましく鳴り出すひなの心臓。
それでもひなの目はその髪の毛に釘付けで、離すことが出来ない。
長くて真っ黒なその髪の毛。
ひなの髪の毛でも亮介の髪の毛でもないそれ。
誰のものか分からない。
僅かにひなの手が震える。
だが、ひなはその髪の毛をその場に放って置くのも嫌で、スクッと立ち上がると恐る恐るその髪の毛の落ちている場所へと歩を進めていった。
ひなの手にじわりと汗が滲む。
髪の毛が落ちている場所まで来ると、腰を下ろしてそっと髪の毛へと手を伸ばす。
手に取った、たった一本のその髪の毛がひなにとっては自棄に重く感じる。
が、何も起こらなかった事にほっと胸を撫で下ろし、腰を上げようとしたその瞬間、
「キャアァァァァァア!!」
耳をつんざく様な悲鳴を上げてひなが後ろへと足を動かす。
ひなは見てしまったのだ。
ベッドの下を。
ベッドの下で長い真っ黒な髪の毛を床に這わせて、青白い顔をしてひなの事を見ていた女性を。
ベッドの下から目を離す事も出来ず、ズルズルと後ろへ足を進めるひな。
しかし、運が悪い事にさっきまで座っていたクッションに足をとられてズドンッと尻もちをついてしまった。
その音を合図にか、
ペタッ……。
ベッドの下から青白い手が出された。