そう思った日下部の眉間の皺が深くなったのに気付いたのか、堤亮介はニコッと微笑むと口を開く。



「伏見さんは以前ボヌール社に在籍されており、退職する際に会社の重要機密文書を持っていかれたのではないかとされていました。ので、今回は先ず我が社がこの場所にある物を確認させて頂く事になっております」



そんな説明では納得出来ない。


だからこそ、日下部は堤亮介をギロッと睨んで「で?」と訊き返した。


それでも堤亮介の笑顔は崩れない。


ただ、一瞬だけ口の端を僅かに上げてニタッと笑うと、


「もし、何かお持ちの物がありましたら出しておいて下さいね」


と言ってきただけ。


だがその瞬間、日下部の背中にぶわっと鳥肌が立った。


自分よりも若い目の前の男に恐怖を感じたのだ。



「んなもん、持ってねぇよ」



吐き捨てる様にそう言うと、堤亮介から目を逸らす。



「そうですか」



どこか見透かしたそんな声が聞こえるが、ブルッと肩を震わせる日下部の耳にはもう届いていない。


日下部は堤亮介を視界に入れないようにしながら段ボールの家の外へと身体を出すと、伊達へと頭を下げる。



「じゃ、私は先に署へと戻ります」


「日下部。戻ったら、暇そうな奴等と勉強室でいつもの観といてくれ!」


「あー、いつものですね。分かりました」



そう言い終わると、コートのポケットに両手を突っ込みゆっくりと歩き出す。



ボヌール社の事は後で独自で調べてみるか。


それにしても、またあの『警察の心得』のDVDを観ないといけないのか……。



そう思うだけで日下部の足が重くなった。