「何で日下部がここに?」


「ちょっと3年前に精神病棟から行方を眩ました伏見を探してましてね」



へらっと笑いそう答えながらも、コートの中に隠しているノートを背中とズボンの間へと差し込む日下部。


それに、上司である伊達は気付いていない。



「そうか。だが、今からここは私達が引き受ける。君は署に戻りなさい」



私達と伊達が言った通り、伊達の後ろには3人の男が居る。


田村が言っていた上層部の者だろう。


ここで彼等に日下部が歯向かうなんて事はできる筈もなく、


「分かりました」


そう渋々と頭を下げるのみ。


そして、ここから出ようと一歩前に足を出した時、


「あっ、すみません!」



おじさんというよりは、若い男の声が響いた。


声がした方へと日下部が顔を向けると、やはり若い男がピシッとスーツを着て立っている。


明らかに警察の者ではない雰囲気を出しているその男。


ニコニコとしたその笑顔が嘘臭い。



「何か?」



ぶっきらぼうに言い放つ日下部の言葉にも笑顔を崩さない。


そしてスッと頭を下げる。



「私はボヌール社からやって来ました堤亮介と申します」


「ボヌール…社…」



日下部の眉間にグッと皺が寄ると共に、ポツリと漏れたその言葉。



わざわざボヌール社から人が来るなんて事、今までで初めての事だ。


さっき見たノートの内容。


あれは有り得ない事だが、……伏見の妄想なんかじゃないのかもしれない。