『カノジョガ、……キタ』



その言葉を最後に、ページをペラペラと捲るが何も書かれていない。


しかも、慌てて書いたのか字が乱れている。



彼女が来たって……。


辻 杏奈が?



「まさか、……信じられない」



自分の有り得ない考えを拭い去る様にそう言うとふっと鼻で笑う。


非現実的。


まさにその言葉がピッタリな事ばかり書かれたノート。



「伏見の妄想と考えるのが一番てっとり早いが、それもな……」



人が溶けて消えた!


そう言った以外は普通な奴だった。


しかも、伏見はどっちかというと嘘を吐くタイプじゃない。


ボヌール社に伏見が在籍していたのも書類で残っている。


ここに書かれている実験。


それと辻杏奈。


全ての答えを見つけ出せる場所は……。



「ボヌール社ねぇ」



髭でザラザラとした顎を人差し指と親指で撫でながらそう日下部が呟いた。


その時、


「失礼します!」


低い男の声が響いたと同時に、バサッと伏見の家のドアであるビニールシートが捲り上げられる。



「ん?」



突然の事に日下部はノートを持っていた手をそのままコートの中に隠し、振り返った。


そこでバチッと目が合ったのは日下部の上司の伊達だ。