真っ黒の封筒に便箋を入れ、今自分にどういう事が起こっているのかを遠回しに教えるというやり方だ。
手紙自体はずっと家に置かれているのだが、その手紙の記憶を消してしまうという手法。
そうすれば、タイムスリップをしてしまった者にはコーシャル等の記憶の改ざんが行き届かなくなる為に、手紙があることに気付くのだ。
ただ、果たしてその手紙で何人の人が自分の置かれている状況を把握するかは不明だ。
そして辻 杏奈だが。彼女は、藤井社長の前妻との間に出来た娘だと思われる。
誰に聞いても記憶を消されているからか、前妻と社長との間には子供はいなかった。と言われるが、私は会社に居た時、前妻との間に子供が居たという話を聞いた事がある。
その子は女の子だとも。
結婚期間はかなり短く、社長ではなく前妻が浮気をした事からの離婚という話だったと思う。
彼女は、何を伝えたいのだろう?
今日も頭痛と共に彼女の声が聞こえてくる』
「藤井社長の子供は、何を伏見に伝えたかったつーんだ?」
明らかに書いてある事は現実では信じられない事なのに、読み進めてきた日下部も、伏見と同じ様にそう呟く。
『彼女の声がハッキリと聞こえた。
「アナタは……どっち?」
そう言っていた。
どっち?とは何と何を指しているのだろうか?』
どっち?
伏見にそう聞いたのを考えると、ボヌール社についたか……。
ボヌール社に勤めているか、勤めていないかとかだろうか?
いや、それも変か。
ノートに目を向けたままそう考えを巡らせて、少し首を傾げる日下部。
そして、次のページを捲る。


