だが、警察である日下部がそんな視線を気にする筈もなく、目の前の女性が顔を上げるのをじっと待つ。
俯きながら泣き続けている彼女。
その姿が3年前に見た男の姿と重なる。
あの時も、こんな風に……。
ゆっくりと顔を上げていく彼女の顔は真っ青で、その姿すらもあの男と重なってしまう。
そして、焦点の合っていない目を日下部へ向けると、
「あ、……梓が……」
震える唇でそう紡ぐ。
「梓?」
彼女が紡ぎ出した名前の人物が誰なのかというのを問おうと、隣の男性へ日下部が顔を向けるが、その男性も眉を下げて首を横に振る。
「いえ、俺も誰の事か分からなくて……」
立っている3人にも顔を向けるが、彼等もまた首を横に振るのみ。
多分、彼女の言う『梓』なんて人物は存在しない。
「おいっ!大丈夫かっ!」
気が動転しているだけかと思い、目の前の女性の両肩を掴み揺する日下部。
だが、彼女の様子は全く変わらない。
「さっき…目の前で、……梓が、……溶けて……消え……たの」
頬を伝う涙と共に、ポツリ、ポツリと紡がれる言葉。
それに、日下部が目を見開いた。
全く同じ。
あの時と、……全く同じ。
「おいっ!何を言ってるんだ!大丈夫かっ!」
「私の……せいで…梓が……」
日下部が声を荒げるが、やはり彼女はそう呟いて涙を流すだけ。
「おいっ!」
そう言いながら力強く彼女の肩を揺すった瞬間、ブルルルッと日下部のコートのポケットに入れていたスマホが振動した。
着信だ。


