「ああ。なら近くだからこっちが行くよ。今、手も空いたところだし」



今日、瀬野の事件があった廃屋で現場検証をしていた田村がそう言ってから耳に当てていたスマホを離し、通話を切った。


そのまま外へと歩を進める。


空はだいぶ暗さを増しており、そろそろ夕方から夜へと変わる頃合いだ。


外の廃屋の壁には煙草を吹かしている男が凭れている。


休憩中というやつだろう。


田村はその男へ手を少し挙げると、そっちへと駆け寄って行った。



「日下部さん!」


「何だ?」



田村の呼び掛けに、面倒臭そうに眉間に皺を寄せて日下部が振り向く。


それに、田村はへらっと笑って一度頭を軽く下げるのはいつもの事だ。



「休憩中、すみません。今、通報があったみたいで。

どうやらこの近くの馬渕って家で人が血を流して倒れているらしいです!ナイフの様な鋭利な刃物で刺されていて、息はもうないとの話です。殺人の可能性が高いし場所も近いですし、こっちが向かうと伝えておきました」



田村がそう伝え終わると直ぐに、日下部がトレンチコートのポケットから取り出した携帯灰皿に吹かしていた煙草をジュッと押し付けた。


そしてクルッと身を翻すと、


「分かった。急ごう」


そう言って歩き出す。


その後ろを田村がはい!という返事と共に付いていった。