「ひなも同じ体験をしてるんだから」
梓のその言葉がひなの胸に突き刺さる。
同じ体験。梓も3年後の世界に行っていたという事だ。
誰にも見てもらえない。
誰にも声すら届かない。
あれは体験して初めて、とてつもない恐怖を感じる。
一人という恐怖は底知れない。
「そ…だけど……。梓、勝也の事が好きだって……言ってたじゃない!」
何で勝也を?
何で好きな人を?
例えあの恐怖から逃れる為だとはいえ、その疑問は消えてくれない。
「好き…だったよ。でも、好きでも許せない事はあるの。亮介のいるひなには分かるわけないと思うけど」
「許せない事って?」
ひなのその問い掛けに梓は一瞬ギュッ唇を噛んだ後、眉間に皺を寄せ、
「命を……売られた事」
そうポツリと言葉を漏らす。
「い、……命を!?」
目を見開いて驚くひなを梓が馬鹿にしたようにふっと鼻で笑う。
「瀬野貴文。ひなは知ってる?」
「今朝、殺人で逮捕されたって。ニュースで」
「あの人、勝也の親戚」
淡々と話す梓。
ここで瀬野貴文の名前が出てくる事からして、瀬野貴文が梓を殺したのは覆る事のない事実。
「夜中に突然勝也からラインがきたのよ。今直ぐに中学校の近くにある廃屋に来てっ!!ってね」
「廃屋って……」
「急な話でも、好きな人からなのよ。……行っちゃうでしょ。そこに殺人犯が居るなんて思わないし」
梓が自嘲気味に笑うが、その姿がひなの目には痛々しく映ったのか梓から視線を逸らした。


