ひなの言葉に何も反応が返ってこない。
それでもひなはもう確信している。
今、自分を殺そうとナイフを振り上げているのは梓だと。
瀬野貴文が殺した3人の年齢。
その中で自分達の年齢と同じなのは、18歳の女性だけ。
明もひなも被害者になるのだとしたら、残るのは夢と梓しかいない。
でも、夢は18歳ではないのだ。
夢は8人の中で一番誕生日が早い。
だから夢なら……19歳。
残るのはたった一人。
「倉橋…梓……なんでしょ?」
ひなの震える声が静かな家庭科室に響く。
それと同時に全く動かなくなっていた身体がふわっと軽くなった。
身体が動く様になったのだ。
反応の無い自分の後ろ。
でも間違いなくそこにはナイフを振り上げたまま固まっている人がいる。
本当に梓が居るのか?
それを確かめる為にも、ひなはギュッと震える唇を噛むと、ゆっくりと首を動かして後ろを振り返った。
真っ黒な布をマントの様に頭から被り身を隠しているその姿。
その黒い布に包まれていない顔は間違いなく梓だ。
梓の鋭い目がひなに向けられている。
「な、……何で?」
その問い掛けに梓は上に掲げていたナイフを持った手をぶらんと落とし、ふっと鼻で笑う。
「何で?って……分かるでしょ」
「…………」
分からない!なんてひなは言えない。
何がなんでもという気持ちはひなにも共通する部分なのだから。


