振り下ろす瞬間に時間が止まったかの様に後ろの気配が動かない。
犯人の名前を言え!
まるでそう言われているようだ。
今もひなの身体は動かない。でもきっと声は出せる。
漠然とそんな事は分かってしまうのだ。
ひなの唇が震える。
言わなきゃならない。でも、言ってしまったら……。
そんな葛藤がひなの頭を占める。
それでも、亮介に言われた言葉がひなの背中を押した。
『何がなんでも生きてここにこいっ!』
何がなんでも。例え友達を裏切ってでも。
ひなの頭に響くのは、明るい女のアナウンサーの声。
《被害者は36歳の男性と23歳と18歳の女性とのことです》
答えはもう出ている。


