最初から過去は、……変える事が……出来ないんだ。
勝也と明を助けるなんて事、出来なかったんだ。
タカシのノートに書かれていた『悔やまれる』という言葉。
それは、意味がなかったのだとここにきてハッキリする。
タカシはタイムパラドックスを気にしていたが、そんな事は絶対に起こらない様になっていたんだ。
ペタッ。
ペタッ。
徐々に近付いてくる足音。
それに合わせてひなの心拍数が悲鳴をあげる。
今、私を殺そうと一歩ずつ近付いて来ているのは、……誰?
誰?
……誰なの!?
思わずそう叫びそうになった瞬間、アナウンサーが言っていたニュースの内容がひなの頭を過った。
ああ。……もう答えは出ていたんだ。
気付かないふりをしていただけ。
私を殺そうとしている人が瀬野貴文に殺された3人目だと思った瞬間から分かってたんだ。
当て嵌まる人なんて一人しかいないって。
私が名前を言ってしまったら相手が消えてしまうから。
消えて欲しくなかったから。
一緒に居たいと思ってたから。
ペタン。
ひなの真後ろで止まった足音。
後ろには確かに人がいる気配がする。
振り向きたくても、ひなの首は動かない。
スッという空気を切る音と同時に、食器棚のガラスに映る月の光を浴びてキラリと光るナイフ。
振り下ろされる!!
そう思ってひなは目をギュッと瞑った。
が、痛みがやってこない。
そろりと目を開くと、ナイフは未だに振り下ろされていなかった。


