記憶の中で明が倒れていたキッチンテーブルの側まで来ると、横にスーっと懐中電灯の光を動かした。
先ずは黒い靴を履いた足が投げ出されているのが目に入る。
その瞬間、ビクッとひなの肩が揺れた。
やっぱり、……やっぱり明は……。
震える手で懐中電灯をゆっくりと上に動かしていく。
と、同時にひなの目に映る明の腹部。
血で真っ赤に染まっているだろうそのばしょからは、ぐちゃっとした内臓の様なものが溢れ出している。
そして、床に広かった金色の髪の上を点々と走る血。
「うっ……、あ……きら……」
カランッという音と共にひなの手から懐中電灯が下へと落ちた。
そのまま両手で顔を被いその場に屈み込むひな。
「間に……合わなかった……」
涙と共にひなの口からポツリと漏れるその言葉。
一度目の当たりにした光景であっても、再び目の前にすると、グッと喉から込み上げてくるものがあるのだ。
ただ、もうひなには明の死を悲しんでいる時間は残されていない。
それを象徴する様に、あの嫌な音がひなの耳へと届いた。
ペタッ。
ペタッ。
誰かが後ろからやって来る足音。
その足音を合図に、ピタッとひなの身体が全く動かなくなった。
恐怖心から身体が動かなくなったわけじゃない。
本当に金縛りにあっているかの様にピタッと身体が動かないのだ。
動くのは目だけ。


