ふと校舎の横へと視線を移すと、そこに見えるのは洋風の廃屋だ。
今朝、瀬野貴文が人を殺した場所。
なのにもう警察すら居ない。
現場に張られるテープすら、もう張られていない。
たった数時間で、瀬野貴文が起こした事件が無かったものになっていく。
これもボヌール社によるものなのだろう。
瀬野貴文は、
『殺さなきゃならなかった』
そう言っていたとニュースで報道されていた。
瀬野貴文のその言葉と、真由美に聞いた怖い話がひなの頭の中をぐるぐる回る。
もしかして、瀬野貴文も……。
「ひな。どうした?」
突然、ひなの隣にいる亮介が首を傾げた。
考えに集中し過ぎて、歩くペースが落ちていたらしい。
「えっ。ううん。行こっ!」
頭の中で考えていた事を誤魔化す様に再び歩くペースを上げるひな。
そして、亮介と共に中学校の校舎の中へと足を踏み入れた。
ジワッと背中にかく嫌な汗。
入った瞬間に視界が闇に囚われる。
やっぱり、……前に来た時よりも時間が過ぎてる。
前に来た時の記憶ではもっと周りが見えていて、懐中電灯無しで校舎を見て回れたのだ。
だからこそ、ひなが明と卓が話しているのを目撃した。
「時間が無いかも!兎に角、理科室に行かなきゃ!」
「よしっ!理科室な」
徐々にこの暗さに慣れてきた目のお陰か、ひながそう言うと直ぐに亮介が理科室へ向かう為に階段へと駆け出した。
その後をひなが追う。
タンタンタンッ!
二人の走る足音が静かな校舎に響き渡った。


