「身体は温かくても、もう無理なのなんか見たら分かんのにな……」
勝也の身体が温かい。
それって、……ついさっき殺されたって事?
犯人はまだ近くに…いる?
バッと後ろをひなが振り返るが、さっき確認したようにそこには誰も居ない。
が、ふと目に入った窓。
勝也の家に入る前に見ていた窓だ。
そこへと歩を進めていく。
そしてカチャンと窓の鍵を外すと、窓を開けて外へと顔を覗かせた。
まだ、誰かが居るんじゃないかという期待と、もし居たらどうしようという不安が入り交じった感覚がひなを襲う。
だが道を歩いている人など一人も居ない。
その事にホッと息を吐き出した。
「警察に電話しなきゃいけねぇよな」
「うん」
後ろから弱々しく聞こえてくる亮介の声にひなが頷く。
それを合図に亮介がスマホをズボンのポケットから取り出して操作しようとした瞬間、慌てた様にひなが振り返り声を張り上げた。
「あっ、待って!私が掛ける!」
「えっ!?……ああ」
突然の事に亮介も頷くものの、首を傾げている。
亮介がいくら不思議そうな顔をしていても、その理由を話している時間は無い。
今、時間が無いからこそ、ひなには自分が電話をしなければならない理由があるのだ。
慌てて鞄から取り出したスマホで110番に電話を掛ける。
直ぐに繋がった電話先に、勝也が死んでいる事とこの場所の住所だけを伝えるとプツンと電話を切ったひな。
『貴方のお名前は?』
電話中にそう聞かれたが、それにひなは答えなかった。


