「ドアは?」
そう訊くひなの声は僅かに震えている。
勝也は女癖が悪かったせいか、高校の時にストーカーをされた事があったらしい。
それから、家のドアは出掛ける時も必ず締めていると亮介に言っていたのを聞いた事がある。
だから、ドアが閉まってて欲しい。
ドアノブへと手を掛けた亮介がゆっくりとそれを捻って少しだけ引いた。
軽々と開いてしまうドア。
「あっ、……開いてる」
「部屋に居るかも!」
亮介の腕の下に身を捩じ込みながら、ひなが勝也の家の中へと入ろうと地面を蹴った。
ドアが開いていた。
……勝也が危ないかもしない。
そう思っての行動だが、亮介にとっては驚くべき事だ。
普段のひななら、勝手に入るなんて事絶対にしないのだから。
「えっ!?勝手に入んの!?」
「ごめん。でも、……急がなきゃならない気がするの!」
困惑している亮介に一瞬だけ足を止めるが、ひなも急いでいるのだからまた直ぐに前へ進もうとする。
そんなひなの腕を亮介がガシッと掴んだ。
「分かった。じゃあ、俺から入る」
「えっ?」
「俺が勝手に入って、ひなはそれに止めようと付いてきただけだ」
そう言って、ひなの腕を引っ張って自分の後ろへおくと、玄関で靴を脱いでスタスタと勝也の家の中へと入っていく。
ひなは亮介の後を追うだけ。
勝手に入った事を問い詰められたら、自分のせいに出来る様に私より先に入ったんだ。
本当に、……亮介は優し過ぎる。


