この幸せに浸りたい。
そうひなは思うのに、頭の中は勝也や明、そして自分を殺した犯人が誰なのかという事ばかり考えてしまう。
一歩間違えれば、今のこの幸せは消えてしまう。
それを分かっているからこそ、そうなってしまうのかもしれない。
二人で歩く時間も電車に揺られる時間も凄い速さで過ぎていく。
幸せな時間は過ぎるのも速い。
ーーーーー
「勝也に会うのは久しぶりだな。連絡はとっててもなかなか会えねぇもんだよな」
「だね」
勝也の家の前で、2階にある勝也の部屋を眺めながら二人でそう会話を交わす。
亮介の手が呼び鈴へと伸ばされるのと同時に、ドッドッドッと速くなるひなの心臓の音。
電話した時には勝也は生きていた。
でも、明と違って勝也が殺されたかもしれない時間なんて見当も付かない。
遅れるという連絡はまだきてない。
今のひなに出来るのは、勝也がいつもの様に元気に家から出てきてくれる事を祈るだけ。
ピンポーン……ーー
自棄に耳に響くその音。
そして、その後の静寂。
誰も……出て来ない。
「あれ?誰も居ねぇのかな?」
軽く首を傾げる亮介の隣で、ひなは一気に顔を青くさせた。
誰も居ない。って事は、勝也も居ないって事だ。
出掛けているだけかもしれない。
大学かもしれない。
でも、……もしそうじゃなかったら……。


