嫌われたくない。良い子に見られたい。


そんな願いはこれから先がまだあるからそう思うものであって、ひなにはもう今しかないのだ。


もしかしたら、ひなは今日で消えるかもしれない。


真由美から聞いた噂話が本当なら、ひなは自分を殺した犯人を言い当てなければならない。


でも、犯人なんて正直見当も付かない。


じゃあ、知り合いを3人殺せるか?と訊かれたら、それも無理だ。


自分が助かる為に人を殺すなんて出来ない。


その先にあるのは、……消えるのみ。







ーーーーー


校門に佇み亮介を待つひな。


亮介に一番に会える場所はここだろう。亮介の職場である会社に行ってもいいのだが、それだとすれ違いになる可能性も高いのだ。



「ひなっ!!」



電話越しではない声がひなの耳に届く。



「亮介!」



声がした方へと振り向けば、少し息を切らしながら駆けてくる亮介の姿。



「わりぃ。待たせた」



ひなの目の前まで来ると、眉を下げて申し訳そうな顔をする。


我儘を言ったのはひなの方なのに、そんな事よりもひなを待たせた事が嫌だったのだろう。


ひなはといえば、目の前にいる亮介を見つめたまま唇を震わせる。


徐々にひなの目に溜まる涙が太陽に照らされてキラリと光る。


そして、


「亮介…だ」


その言葉をと共にポスンッと亮介の胸へと顔を埋めたのだ。



「なっ、…ひな?」


「亮介が側に居る」



いきなりのひなの行動に目を丸くさせて驚いている亮介を他所に、ひなはギュッと亮介の服を握りしめる。


本当に亮介が居る事を確かめるように。