「あ、…あっ、……今、……サトシが……。オ、オレの、……目の前で、……溶けて……消えたんだ」


「溶けて…消えた?何を言っているんだい君は?」



涙をボロボロと流しながら自分の目の前を震える手で指差す男が、一体何を言っているのか理解出来ない。



消えたとは、犯人が逃げた…という事か?



「犯人が逃げた…という事ですか!?」



若干語尾を荒げてしまったのは、犯人を逃がしてしまったという焦りからだ。


が、日下部のその質問に男は大きく首を横に振る。



「ち、……違う!ほ、本当に、…溶けて消えたんだ!」


「人は溶けませんよ」


「ほ、本当なんだ!……オレは見たんだ!……オレが、……アイツを……」



拉致が飽かないと考えた日下部から小さな溜め息が漏れる。


その時、慌てた田村がこの部屋に入って来て声をあげた。



「日下部さん!全ての部屋を確認して来ましたが、誰も居ませんでした!それに、通報にあった遺体すらもありません!大きな血痕も何処にも見付かりません!」



一瞬目を見開いたまま固まってしまう。


日下部は、冷静なタイプだと言われる事が多かった為に、こんな事は珍しい。


それ程、驚いたという事だ。


が、直ぐに目を鋭くさせると、泣いている男へと向ける。



「どういう事でしょうか?」


「な、……何で!?」



男は日下部以上に驚いた様子で、ガクガクと身体を小刻みに震わせ始めた。



「オ、…オレは、……嘘なんて吐いてない!」



そう叫んで立ち上がろうとした男の肩をガシッと掴む。