「消えていってる」



足元からモヤが掛かった様に身体の形が見えなくなっていく。


時間は、……まだある。


ひなが消えていっているのは、時間がきたからじゃない。



「記憶、思い出したのか?」


「…うん」


「だから、……消えるのか?」


「そう…みたい」



僅かに震える亮介の声に返事をするひな。


ひなのその言葉で亮介がスッとひなから目を背けた。


じわじわとモヤは上へと昇ってきてひなを消していく。



もう、時間がないんだ。


きっと、もう亮介に会えない。



「亮介。私ね、……殺されてたみたい」



精一杯の笑顔を亮介に向けるひな。


本当は涙が出てしまいそうなのをグッと堪え、両方の口角をニィっと上へあげた。



最後位、……笑っていたい。


亮介の目に映る私は笑っていて欲しい。



そう思っての事だ。


が、ガバッと顔を上げた亮介の目は悲しそうに眉尻が下がっている。



「えっ!?」


「だからね。私、……これから死ぬのかも」



言った後に、ギュッとひなが唇を噛み締める。


涙が溢れてしまわないように。


なのに、亮介はそんなひなにキッと鋭い目を向けた。



「馬鹿言えっ!死ぬな!何がなんでも死ぬな!俺はひなが好きなんだよ!大好きなんだよ!」



鋭い目なのに、眉尻を下げ目を真っ赤に充血させているその姿にひなの心臓がドクンッと大きな音をたてる。