足元から全身まで一気に鳥肌がたつ。
ただ、それだけで動く事も逃げる事も出来ない。
唯一動くのは首だけ。
ひなは動く首をゆっくりと左へと回した。
その瞬間、ビクッと肩が揺れる。
血の気の全くない真っ白な顔に、真っ黒な長い髪。
そんな彼女がニタァっと笑っているのだ。
長い前髪の間から見える黒く光る彼女の目は、ひなの目をじっと見つめていて、その目の中に吸い込まれそうになる。
彼女に……捕まる。
「ひなー!!」
「りょ……すけ」
亮介が名前を呼ぶ声がひなの耳に届いた瞬間、スーっと真後ろに居た彼女が消えていく。
それと同時にガクンッと身体の力が抜けてその場に膝をついた。
タンタンタンッ!
亮介がひなの方へと駆け寄ってくる足音が家庭科室に響く。
「大丈夫か!?」
「なん…とか…」
ひなの横に屈んで、ぽんっと肩を軽く叩く亮介に、ほっと胸を撫で下ろしたひな。
亮介が居る。
亮介が無事だった。
ただそれだけで安心出来る。
「幽霊……は?」
キョロキョロと周りを見ている亮介と一緒にひなも、ぐるっと家庭科室の中を見渡した。
もう、どこにも居ない彼女。
「消えた…のかな」
「そっか。良かった」
ひなの答えに亮介がニカッと笑った。
が、直ぐにガシッとひなの両肩を力強く掴む。
「ひな!身体が!」
「えっ!?」
驚いた様に声は大きく、ただ目は不安の色を映しているのかキョロキョロと視点が定まっていない亮介のその叫びに、ひなも慌てて自分の身体へと視線を落とした。