「それもだが」


「他にも疲れる事が?」



眉間に皺を寄せて言い渋る日下部に田村が首を傾げる。


それに、はぁ…と盛大な溜め息を日下部が吐いた。



「この事件、何だか気持ち悪いんだよ」



さっき瀬野を逮捕した時に感じた感覚。


それがずっと続いている。



「気持ち悪い?」



更に首を傾げる田村は、意味が分からないという顔だ。



「何だろうな。モヤがかかったままって感じか」



日下部が頭を捻って、今感じている感覚を訴えれば「へぇー」と、未だ理解出来ていない様な田村の相槌が続いた。



モヤの原因が何か分からない。


分からないという事が余計に日下部を苛立たせる。



「ああっ!むしゃくしゃする!」



そう叫びながら髪の毛を両手でぐしゃぐしゃと乱す日下部。


その様子を田村が目を丸くして見つめている。


普段は驚くほど冷静な日下部をこんなに苛立たせる事件は、久しぶりなのだろう。


そこで何かを思い出した様に田村がポンッと手を打った。



「気持ち悪いっていえば、3年前にあった人が溶けて消えたって言いはる男、いたじゃないですか」


「ああ、そのまま精神病棟送りになった男だろ。あー、確か伏見だったか?」



あの時も今の様にモヤがかかった気持ちになった気がする。



そう思うと同時に日下部の頭を過る3年前のわけの分からない通報。


悪戯というよりも、実際にその光景を見たと話す精神状態が可笑しな男。


薬をやっていた訳でもなかった。


そして、その人が溶けて消えたと言う以外は至って普通という何とも不可思議なものだった。