日下部が間近に近付いても、瀬野はガタガタと震えたまま動く気配がない。


ゆっくりと銃を下ろすと、即座に右手で瀬野の腕を取り後ろへと捻りあげる。



「殺人の現行犯で署へ連行する!」



日下部のその言葉にも震えたまま反応を示さない瀬野。


既に拘束されているのだが、暴れる様子は全く無い。



諦めたのだろうか。


薬をやっていたなら、必ず暴れるのだが薬をやっていなかったという事か。


いや、それにしては殺し方が酷過ぎる。


真っ赤に続く血の道は、明らかに数回刺された被害者が、足を引き摺って今倒れている所まで逃げたのだろう。



そこまで考えた所で日下部の眉間にグッと皺が寄る。



放っておいても出欠多量で亡くなっていただろう被害者。


なのに滅多刺しにし内臓を出すというのは、余りにも猟奇的だ。


こういう現場には当たりたくないとさえ思ってしまう。



家の外から聞こえてくるパトカーと救急車のサイレンの音。


それに混じって瀬野は、日下部に手錠の掛かった手を引っ張られながらもずっとブツブツと独り言の様に呟いている。



「俺は悪くない」と。



瀬野に滅多刺しにされたのは、今、日下部が見た被害者で3人目だ。


しかも、今日に入ってたった5時間でそれをした。


日下部がチラッと時計を確認すれば、時計の針は朝の5時10分を指している。