「高校の時に馬渕さん家から出てきた貴文君に会ったのが最初かな。その時は夢と梓、太一も一緒にいたから貴文君の事、あいつらも知ってんだよ」
勝也の記憶が無いからそういう思い出になっているのか。
ひなはそう思うとふぅっと息を吐き出した。
「そっか。……じゃあ、その貴文君は、いつから馬渕さん家に住んでるの?」
「2年半前位からかな。仕事の関係で…って言ってたぜ」
「そうなんだ」
2年半前なら知っている筈がない。
今のひなは3年前からやって来たのだから。
あからさまにガクッと肩を落としたひなの背中をぽんっと亮介が叩く。
「もしかしたら貴文君いるかもしれないし、行ってみるか」
「あっ、……うん」
落ち込みそうになると直ぐに亮介が引き上げてくれる。
それが嬉しくて少しだけひなの顔に明るさが戻った。
勝也の家の前まで来ると、馬渕と書かれた表札の横にある呼び鈴を亮介が押す。
緊張からか、ドッドッドッとひなの心拍数が早くなる。
と、同時に、ピンポーン…という音の直ぐ後に、家の中から「はーい」という高い声が響いた。
カチャッとドアが開けば、そこにはひなの記憶にもある勝也の母親が顔を覗かせている。
「こんにちは」
そう亮介が挨拶をすると、勝也の母親の顔がパアッと明るくなった。
「あら。亮介君じゃない!久しぶりね」
「はい。お久しぶりです」
勝也と一番仲が良かった亮介は、頻繁に勝也の家へと行っていた。


