「えっ!?あそこって……」
驚きと共にひなの口から漏れた言葉。
それに亮介が不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
可笑しい。
変だよ。
だってその家は……、
「あの家。……勝也の家だよ」
ひなの言葉に一瞬、時が止まったかの様に動かなくなる亮介。
だが直ぐにハッとすると、目を見開く。
「えっ!?でもあの家には馬渕さん夫婦と貴文君しか……」
そこまで言って口をつむぐ。
亮介も気付いたのだ。
自分が馬渕勝也の事を知らない事に。馬渕勝也に関する記憶が無い事に。
「記憶が消えてるんだよ。でもそんな事よりも気になるのはね、……勝也は一人っ子だったんだよ。兄弟なんて居ない筈なの。亮介、……貴文君て誰?」
ひなが知っている限りでは、勝也の家には父親と母親、それと勝也だけの筈。
それに、ひなは貴文君なんて人に会った事がない。
「あー、貴文君は馬渕さんの家の子供じゃないよ。親戚ってやつ。そういえばひなは会った事無かったっけ?」
「し、……親戚か。私は会った事無いと思う」
完全なひなの早とちり。
貴文君という子供が馬渕さんの家に居るという事に、勝也が貴文君という名前で存在しているのかと一瞬思ってしまったのだ。
そういえば勝也が前に親戚のお兄さんがいるって話をしていた気がする。
そのお兄さんが来てるから家に来るか?と仲良し8人組にラインがきていた事があったと思う。
私と卓だけ用事があったから行けなかったんだ。
だから、貴文君という存在が不思議でしょうがなかったんだ。


