『ひなの家族って仲良しだよね』
『うん。私の家族、仲良しなんだ。それが幸せ!』
そんな会話を何回しただろう。
梓はどんな気持ちで聞いてたんだろう。
梓は、……私の事が嫌い……だったのかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくて、きっとそう。
梓が虫ずが走るって言ったのは、……私の事だ。
私の事を覚えてなくても、嫌いな奴がいたという気持ちだけが残ってたんだ。
足は動いていても、ひなが考えるのは梓の事ばかり。
自分に残された時間があと少しという事も分かっているのに、気がそっちへ向かない。
手を引っ張ってくれている亮介の顔をひながそっと伺う。
少し焦っている様な表情。
ひなに残された時間を気にしているのだ。
ひなの為に。
自分の事を必死に考えてくれている亮介のそんな表情を見て、ひなの胸がキリッと痛くなる。
自分だけの為じゃなくて、自分の為に頑張ってくれている人の為にも、今は目先の事に集中しなきゃならないんだ。
そう思うと、重い足にグッと力を入れた。
ーーーーー
亮介が歩を進めている道を考えると、どうやら次は卓の家に向かっているらしい。
が、梓の家から卓の家に行く前に行きたい所がある。
梓と亮介の会話を聞いていて少し気になった事だ。
「あのさ、さっきの馬渕さんの家って……」
梓が言っていた近くにある馬渕さんの家。
亮介へ顔を向け、そこまで口にした時、
「それなら、あそこだぜ」
ニカッと笑って亮介が目の前にある和風の2階建ての家を指差した。


