工事が途中で止まっているから広まった噂。
多くの噂とはそういうものなのかもしれない。
そう割り切ってしまえばたいした話ではない。が、ひなにはその噂が引っ掛かる。
何か、……何か今のこの状況に関係あるような気がする。
ただの勘だけど。
「後さ、中津明と馬渕勝也ってやつ知ってる?」
「さぁ、知らない。あっ、でもこの近所に馬渕さん家はあるけどね!」
「それは知ってる」
「だよね。亮介も貴文君と仲良かったもんね」
「おう」
梓も明の事も勝也の事も知らない。
『ねえ、ひな。私さ、……勝也の事好きなんだ』
『嘘っ!』
『ほんと。ひなだけに言うんだからね!ひなは親友だから』
お泊まりの時に耳元でこそっとひなに教えてくれた梓の気持ち。
勝也の事を知らないなら、梓のあの気持ちは消えてしまったんだろうか。
頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた梓はもういないんだろうか。
キシキシとひなの胸が痛む。
「じゃあ、私行く所あるから」
「ああ。じゃあな」
一通り話終えた梓は、軽く亮介に手を振りひな達に背を向けて去っていく。
が、途中でクルッと振り返ると鋭い目を亮介へと向ける。
「あっ、亮介!」
「ん?」
「この事、誰にも言ってないよね?」
そう言って梓が指差したのは自分の左腕。
眉間に皺を寄せて、
「……言ってねぇよ」
と答える亮介を見て梓が片方の口角をあげる。


