「じゃあさ、もう一人の……」



そこで亮介が口を閉じた。


亮介は覚えていないから、死んでいたと言われてもたいした動揺が無い。が、ひなは覚えているからこそ動揺している筈だ。


そんなひなに、死んでるんじゃ…なんて言葉を言えなかったのだ。


が、ひなもそんな亮介の気持ちを察したらしい。


自分から口を開いたのだ。



「うん。勝也も死んでるのかもしれない。誰かに殺されて死んでしまったんだとしたら、その事件ごと殺された人の記憶も消されちゃうんだと思う」


「わ、…訳分かんねぇ……」



首を傾げたまま頭をガシガシと掻く亮介に、ひなが苦笑いを漏らした。



「私も分かってないから」


そんな言葉を添えて。


ひなのその言葉で悩むのを止めたらしい亮介は、コロッと表情を変え、ニカッと笑う。



「まあさ、記憶、戻ってきてるって事だろ!」


「まあ」



戻ってきているといえば、戻ってきているのだろう。


ただ、期限は今日一杯までなのだが。



「良かったんじゃねぇの」


「良かった?」


「俺にとっては良かった!だってひなが消えるとか嫌だからな」



そうハッキリと亮介に言われて、一気にひなの頬が赤く染まる。


同時に鼓動が加速する。



好きな人にハッキリとそう言ってもらえるなんて嬉し過ぎる。



そんな気持ちでいっぱいいっぱいになったひなには、お礼を言うのが精一杯。



「あ、ありがと」


「おう」



少し吃ったそのお礼を気にする事も無く、亮介はそう言った後直ぐに、手に持っていた菓子パンを口へと運んだ。