暗い部屋を手に持っている懐中電灯の光が照らす。


キッチンテーブルがいくつも並ぶこの場所は、中学校の家庭科室だ。



ペタッ。


ペタッ。



今日も頭に響く嫌な足音。


真っ赤に染まった自分の手と目の前で倒れている女の人。


黒い靴に、白のレースがふんだんにあしらわれた黒いワンピースを着た彼女。


腹部は真っ赤で、何度も刃物で刺したのかぐちゃぐちゃになった内蔵の一部が飛び出している。


彼女の長い金色の髪が床に舞い、その上に点々と落ちている真っ赤な血。


白目を剥いて倒れている彼女は、もう息をしていない。



「あ、……あ、…あ、……ああ……」



そんな自分の震える声が響く。


私は目の前で倒れているこの女の人を知っている。


だからこそ彼女の死を嘆く自分。


昔は男の子の様な格好ばかりしていた彼女は、本当にイメチェンをしていて、今では絵本の中のお姫様の様な格好だ。


自分の事を僕と言っていた彼女が。


今、目の前で誰かに滅多刺しにされた彼女は、……明だ。



中津明。



それが彼女の名前だ。



「あ、……あき…ら……」



目を覚ましたひなは両手で顔を覆うと、泣きながらそう声を漏らした。


今見たのは夢。


でも、夢だけど夢じゃない。


この世界に来る直前の記憶。


だから、実際に起こった事だ。


ひなが涙を拭いながらリビングへと行くと、今日もテーブルの上に朝食の菓子パンが置かれている。