その間ひなといえば、見えないのだから出ていっても良かったのだが、隆の事と関係があるかもしれないと思うと、日下部にかかってきた電話の内容が気になって盗み聞きしていたのだ。


が、特にこれといった収穫は無しだったのだが。


スマホをしまった日下部の目がテーブルに置かれた大学ノートへと注がれる。



「ノート?」



慌ててひなが置いたからか、さっきまでひなが読んでいたページが開かれたままで置かれている。


ノートを手に取った日下部は、そのノートをパラパラと音をさせて捲った後、最初のページへと目を落とした。その瞬間、


「ほーお。興味深いな」


一人そう呟く。


そこからノートを真剣な顔をして読み始めた日下部を見て、ひなはそっと毛布から抜け出し、隆の家から外へと出た。


音をたてないようにする必要は無いのだが、身を隠したいと思っていると、自然とそういう動きになってしまうものだ。



あのノートに書かれていた『私が……』の後はどんな言葉が続いていたんだろう?



そう思うものの、死んでいた隆の顔が頭にこびりついて消えてくれない。



あんな風に倒れている人を見たことがある。


夢なんかじゃなくて、記憶の一部。


絶対に見ている。


目の前で真っ赤に染まった倒れた人を。



徐々に戻る記憶と、隆が書いたノートの内容。それだけでひなの頭はパンク寸前なのに、考えなきゃならないことはまだまだ山ほどある。


そして何より、ひなの胸をズシッと重くさせているのは、隆という存在がこの世から居なくなった事。