「わりぃ。でも、俺、夢の気持ちには…」
「応えられない…ですよね。何回も聞いてます。正直、亮介君が好きな人が、……憎いですよ」
亮介の言葉に被せる夢の心境がどんなものかはひなには想像がつかない。
ただ『憎い』と口にした時の夢の顔は憎しみに満ちていて、ひなの背筋がゾッと震えあがった。
「ゆ、……ゆ…め?」
初めて見た夢の顔に困惑して、ひなの口からポロッと漏れた言葉。
それには、本当に夢?という気持ちが込められていて、夢があんな怖い顔をするのが信じられなかったからだ。
しかし、当然ながらひなの声は夢には届かない。
憎しみに満ちた顔から元の綿菓子の様なふわっとした笑顔にコロッと変わると、
「あっ、私そろそろホームに行かなきゃなので。じゃあまた。そろそろ私の事好きになって下さいね、亮介君」
冗談混じりな言い方でそう言ってひな達に背を向けた。
コツンコツンとヒールの音を鳴らして駅へと歩き出した夢の背中をじっと見つめる。
風に靡く後れ毛がふわふわとしているその後ろ姿はひなの良く知っている夢。
でもその内面はひなの知らない夢。
「夢の事を好きになる日は一生来ねぇよ」
亮介がポツリと呟く。
その言葉に一瞬だけひなが眉間へ皺を寄せた。
まるで自分が言われた様な気になる。
ひなはキリキリと痛む胸にそっと手を当てると、そんな思いと一緒にゴクッと息を呑み込んだ。


