「なんでだよ?俺 別にやましいことも無いし、紗子の来たいときに遠慮なく来ればいいんだよ?」

「や、そういうことじゃなくて…
とにかく!大丈夫だから、本当に。」

合鍵だなんて、そんなもの私が受け取る資格なんてない。
それに、正直渡されても困る。

「そうか、またの機会だな。」

困ったように笑う正樹に、私は何も言えなかった。


正樹は、そんな大切なものを渡すほど、私のこと信頼してるの?

私がどういう人間か、ハッキリと知らないのに?

私は、信じているけれど、でも…


「正樹。」

「ん?」

「私のこと、気に掛けてくれてありがとう。こんな私みたいな愛想一つない人のこと、ずっと気にしてくれて。」

「いや、紗子は…」

「でもね。」

私は正樹の言葉を遮る。

「私、大丈夫だから。」

「えっ?」

「今夜のことは、本当に感謝してる。本当に…。でも、私、弱くないからさ。そんなに心配しなくて大丈夫だよ。」


私は小さく笑った。

これ以上、正樹と距離を縮めるのが少しだけ怖くなった。


今なら、まだ大丈夫。



そんな私を見て、正樹はポンと私の頭に優しく手を置いた。

「紗子、葛藤してるな。」

「葛藤…」

「無理に俺のこと信じなくてもいいよ。俺の気持ちなんて考えなくていい。紗子のペースで、紗子の気分でいいからな。」

「正樹…」

またしても、私は言葉を詰まらせた。