「絵里、紗子先輩みたいになりたいです~」
「あ、そう。」
「紗子先輩って、クールビューティーで、賢くて、なんか自分を持ってるって感じで。本当に憧れちゃいます。
うちの大学で紗子先輩、結構有名なんですよ?高嶺の花美人って。」
「そりゃ、どうも。」
「彼氏にもこの間、もっとおしとやかになってって言われました。
ていうか、ひどくないですか~?」
絵里はブツブツ喋りながらも、荷出しを手際よく終わらせ、「裏入って、発注してきまーす!」と言って行った。
はぁ、あの子の口は閉じることを知らないのだろうか。
「いらっしゃいませー」
コンビニは今までのバイトは全く違った。
人の流動が激しく、どことなくみんなが急いでいる。私の嫌いな、まさに外の世界。
ゆったりとした時間なんてもちろんなかった。
最初は慣れなかったけど、今はもう切り替えている。
むしろこっちの方で良かった、色々とマスターとの思い出が呼び出されないから。
時刻は夜の9時、あと1時間であがりだ。
9時を過ぎると、一旦、人の流れは落ち着き、少しだけ静寂になる。
「ありがとうございます。」
一人の男性がレジへ来た。
私はあまり人と目を合わせない、なんとなく、鼻のあたりを見る。
失礼かもしれないけれど、他人の顔がまともに見れないのだ。やっぱり人を信じることが出来ない象徴だろうか。
「似てる、な。」
えっ…?
不意にそのお客さんは何かを呟くものだから、商品をビニール袋に入れながらチラッと顔をあげた。
私何かしてしまったのだろうか?
そのお客さんは私をまっすぐ見つめていたものだったから、慌てて視線を袋へと戻す。
「朝比奈…紗子さん?」
「えっ…」
何で?私の名前…

