そう思うのに―――
「あ、れ…?」
私の頬は冷たく濡れていた。そっと手を当てる。
鼻の奥がツンとして、視界が徐々にぼやけていく。
「なんで…なんで涙なんか…」
頭の中が正樹でいっぱいになる。
出会いは最悪で。
私は正樹を不審者扱いしていたっけ。
でもその優しい雰囲気と笑顔はどこかマスターにも似ていて。
温かい信用できる人だった。
初めて夜ご飯を食べに行った日、正樹は裏切らないと私に言ってくれた。
暴漢に襲われそうになった日、私の傍にいてくれた。
風邪を引いたとき、自分の姿を見られたくはなかったみたい。
私の誕生日プレゼントの1つにはお揃いのマグカップ。
そしてマスターとの関係、真実を告げたあの日、あの瞬間はずっと忘れない。
いつも優しい笑顔で、あたたかい温もりで私に接してくれた正樹。
どんどん溢れ出す正樹への〝好き〟という感情。
決して、この半年間が異常だったわけではない。
私にとってはかけがえのない毎日で、幸せだった。
そこには私と正樹の時間が確かに存在していた。
「もう…もう…」
ねぇ正樹、教えてよ。
この気持ちはどうしたらいいの?
もう今さら後戻りなんて出来ないよ、無かったことになんか出来ない。
正樹と過ごした時間は、何にも代えられないんだもの。

